about Carnatic Music

 

<北と南どう違う?>

インドの古典音楽は主に二つに分類され、シタールやタブラが使われるのが北インドの古典音楽「ヒンドゥスターニー音楽」で、南インドの古典音楽は「カルナータカ音楽」とよばれています。

カルナータカ音楽と言われても、残念ながら「ああ、あれね」とわかる人の方が圧倒的に少ない音楽です。インドの古典音楽ですが、ビートルズでご存知の北インドのシタールやタブラは使われません。

 

 

<カルナータカ音楽の今昔>
カルナータカ音楽は主に南インドのタミル・ナードゥ、ケーララ、アーンドラ・プラデーシュ、カルナータカの4州で、歌い継がれ愛されている音楽で古典音楽だけあって理論的にもしっかりしています。

かつてはバラモンが個人として神への帰依を示すために作曲し歌っていたものが、ヒンドゥー教の寺院や宮廷の庇護を受けて発展しました。主に師匠のもとに弟子が生活をともにしながら、楽譜ではなく口伝により音楽を学ぶ「グルクラ」というシステムによりそのような音楽は伝えられてきました。

21世紀の現在でも数千曲にも及ぶ曲が歌い継がれ、さらには現代の音楽家も日々曲を作っていて、そのうち良い曲は弟子や他の音楽家にも歌われて広まっています。現在では、グルクラによる音楽教育はごくわずかとなり、大学や音楽学校で外国人を含むより多くの人々が習うことが出来るようになりました。

 

 

<コンサート>

現在のカルナータカ音楽のコンサートはホールや結婚式場、学校の講堂やヒンドゥー寺院などあらゆる場所を会場として行われています。形式として多いのは声楽(ボーカル)で、器楽もヴィーナー・竹笛・バイオリン・さらにはサックスやマンドリンにギターまでもが使われていますが、器楽のための曲は存在せず、器楽奏者も楽器を通して歌うという概念で演奏しています。
 
コンサートの編成は、主奏者(ボーカルや器楽奏者)とその主奏者に対しメロディー伴奏をするバイオリン。リズム伴奏には両面太鼓のムリダンガム、トカゲ皮のタンバリンであるカンジーラ、粘土を焼いて作った壷を叩くガタム、鉄製の口琴モールシンといったパーカッションが入ります。
 
コンサートで観客は曲にあわせて手を打ち拍子を取ったり、自分の知っている曲だと一緒に口ずさんだり。音楽家がかっこいいフレーズで歌ったりすると「サバーシュ!」と声を上げ、手を前方に上げたりします。

とても古典音楽の客席とは思えないぐらい賑やかで楽しいのです(インドらしいですね)。 特にタニ・アヴァールタナムというパーカッション・ソロの部分では、客席も一緒になって拍子にあわせて手を叩き、リズムの妙を楽しみます。

 

<ミュージック シーズン>
今やチェンナイ名物とも言っても過言ではないのが、12月から1月の「マールガリ月」に開催されるチェンナイ・ミュージック・シーズン。

朝から晩までチェンナイのいろいろな会場で一斉にコンサートが開催され、「どのコンサートに行くべきか?」と我々をクレイジーにさせる時期です(笑)。この時期には外国人旅行者や世界各国に散らばる南インドの人々もチェンナイを訪れカルナータカ音楽に酔いしれます。是非あなたもその時期にチェンナイを訪れてカルナータカ音楽三昧な日々を送ってみませんか!
 
とはいえ、なかなか現地まで足を運ぶことの出来ない人もやはり多いかと思います。そんな人は是非この「カルナーティック宣言!!!」で気になるものを探していただき、「む、おもしろいかも!」と思ったならば是非一度南インドを訪れてみてください。 生でこの音楽を体験したら、きっとあなたもカルナータカ音楽の虜になるはず。
 

 豊潤なるカルナータカ音楽の世界へようこそ!!!

 

カルナーティック用語集

<ア行>

アーラーパナ:Aalapana 
各ラーガに特徴的な様々なフレーズを展開する即興部分。

曲が始まる前に導入部として演奏される。ラーガの魅力がたっぷりとつまった部分で、特にコンサートのメインとなる曲では20分から30分とクリエィティヴィティをフルに発揮し歌われ、演奏される。
 
ヴィーナーVeena
南インド代表する7本の弦を持つ弦楽器。四本の弦で旋律が奏でられ、三本はリズムの調子を取るために鳴らされる。琵琶の語源になったとも言われる楽器で、インドでは学問や芸術の女神サラスヴァーティーが演奏する楽器として知られている。

 

<カ行>

カッチェーリ:Kucheri
南インドで「コンサート」を意味する単語。
 
ガタム:Gharam
鉱物などを混ぜた土を焼いて作った壷の打楽器。

指先や手のひらを用いて様々な音を奏でる。外見は調理用の土壷とよく似ている。
 
カンジーラ:Kanjira
トカゲ皮を張った小さなタンバリン。通常一対の小さなシンバルがつく。

演奏時には皮を水で湿らせ、楽器を持つ左手の指でテンションを変え豊かな低音を出す。
 
クリティ:Kriti
現在カルナータカ音楽で一番よく歌われている曲形式。

パッラヴィ(主題提示部)、アヌパッラヴィ(副主題提示部でパッラヴィよりも高い音域で歌われる)、チャラナム(アヌパッラヴィの後に広い音域で歌われる終止部)の3つのパートからなる。
コンサートでは、クリティの前にアーラーパナが歌われ、クリティの3つのパートを歌うだけでなく即興演奏パートが加えられることもあり、一曲が1時間以上に及ぶこともある。
 
コルベKorvai
演奏のシメに同じもしくは良く似たフレーズを三回繰り返してターラの一拍目に戻るテクニック。

コルヴァイとも呼ばれる

 

<サ行>

サバーシュ
コンサートで良い歌唱・演奏が出たときに、音楽家同士もしくは観客からその場でかけられる声。「ブラボー」と同じようカンジで使われる。

同じ様なかけ声に「バレ(バラ)」や北インド古典音楽でも使われる「キャバ(キャーバットヘー)」がある。良いコンサートでは、この「サバーシュ!」がステージ・客席から頻出し、それによりさらにどんどん良い演奏が引き出されるという側面がある。
 
サンギータ・カラーニディ:Sanrita Kalanighi 
ミュージック・アカデミーが1929年以降毎年カルナータカ音楽やバーラタナティヤムなどの芸能に貢献した音楽家などに対し授与する非常に栄誉ある称号。音楽家・舞踊家以外にも学者なども賞を受けている。

その多くは声楽家やバイオリニストであるが、1966年にパルガット・マニ・アイヤールがパーカッション奏者として、1968年にはM.S.スッブラクシュミが女性音楽家として始めて受賞した。
 
シャーマ・シャーストリ: Syama Sastri
三楽聖の一人。三楽聖の中では最年長でテルグ語、サンスクリット語、タミル語で主に女神を崇拝する曲を作る。

三楽聖の他の二人ほど多くの作品を残してはおらず、その数は300曲ほどと言われる。

 

<タ行>

タヴィルThavil
儀礼音楽に主に使用される寸胴の両面太鼓。爆竹のようなアタッキーな音を出す。
 
タニ・アヴァールタナムTani Avartanam
コンサートのメインの曲の後に来るリズム伴奏者たちによるパーカッション・ソロ。コンサートの見所の一つ。

主奏者や観客も一緒になって拍子を手で打ち、算術的かつスリリングなリズムのやりとりを楽しむ。
 
チェンナイミュージック・シーズンChennai Music Season
もはやチェンナイ名物とも言える音楽月間。

毎年12月半ばからの一ヶ月余りの間、チェンナイ中で朝から晩までカルナータカ音楽・バーラタナティヤムのコンサートが開催される。

 
チトラヴィーナー: Chitra Veena
カルナータカ音楽で演奏される弦楽器で、形はヴィーナーに似ているがフレットがなく、スライドバーを弦の上に置いてフレットニングし演奏するため、ボーカルに近い表現が可能。南インドの古典音楽の楽器では唯一共鳴弦を持つ。

ラヴィキランが現在メインで使っている「ナヴァチトラヴィーナー」は演奏弦6本、リズム弦3本、共鳴弦11本の計21本。
 
ティヤーガラージャ:Thyagaraja
カルナータカ音楽の偉大な作曲家の一人で、ムットゥスワーミ・ディークシタール、シャーマ・シャーストリとともにカルナータカ音楽の「三楽聖」を成す。

18世紀後半から19世紀半ばにかけて活躍し多くの作品を残し、その多くが現代の音楽家に愛され歌い継がれている。「五つの至宝」とよばれるパンチャラートナ・クリティは有名。

 

<ナ行>

ナーダスワラム:Nadaswaram
ナーガスワラムと呼ばれることもあるダブル・リードの楽器。北インドのシャナイをもっと長くしたもの。縁起の良い楽器とされ南インドのヒンドゥー教儀礼や結婚式には欠かせない。

 

<ハ行>

バイオリン: Violin
もはやカルナータカ音楽には欠かせない楽器の一つ。

18世紀に三楽聖の一人、ムットゥスワーミ・ディークシタールによって導入されたと言われている。インドの古典音楽家はステージの上に胡坐をかいて座るのでバイオリンもヘッドを下に向けて演奏される。
 
パンチャラートナPancharatna
 
プランダラ・ダーサPurandaradasa
「カルナータカ音楽の父」とも呼ばれる作曲家で16世紀に活躍し、1000曲あまりが現存すると言われている。

主にカンナダ語で作品を残した。カルナータカ音楽の三女王のM.L.ヴァサンタクマリは彼の曲を得意としていた。
 

<マ行>

ミュージック・アカデミーMusic Academy
1928年にマドラス(現チェンナイ)に創設された、カルナータカ音楽を中心に南インドの芸能をサポート・促進する組織。若手を育成するプログラムや学校も経営している。

http://musicacademymadras.in
 
ムットゥスワーミ・ディークシタール: Muthswami Dikshitar
ティヤーガラージャ、シャーマ・シャーストリと並ぶカルナータカ音楽の「三楽聖」で一番若かった作曲家。

サンスクリット語で多くの作品を残し、インド中を旅して寺院を巡りその神を讃える歌を多数作った。三楽聖の中では、彼の曲が一番難解であると言われる。
 
ムリダンガム:Mridangam
カルナータカ音楽の伴奏に使われる横胴の両面太鼓。利き手で高音、もう片方の手で低音を操る。高音・低音ともにいくつかの音色があり、それを使い分けながら美しいフレーズを叩き出す。
 
モールシンMorsing
鉄製の口琴。弁の振動を口の中で共鳴させて音を出す。口琴が他の打楽器と同様コナッコルに基づいたリズム割でパーカッションとして演奏される。

 

<ラ行>

ラーガRaga
一連のメロディーによって定義される旋律。上向形と下向形の違うものや、音がジグザグに上下していくものなど様々なものがる。各ラーガには固有の名前がついているのもインドらしくかわいい。
 
ラーガム・ターナム・パッラヴィRagam Tanam Pallavi 
音楽家の高度なクリエイティヴィティーが要求される曲形式。

★旅行雑誌「旅行人」06年冬号に寄稿した「豊潤なるカルナータカ音楽の伝統」も、合わせてご覧ください。

 

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